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「 売りヘン語 」、お控えなすって。
神戸 常雄
カウンターで商品の代金を払う時、女性販売員が「千円からお預かりします ! 」と尻上が
りの発音で、キビキビ挨拶する。ややっ、と思うわけです。実は、このごろはこっちも馴れ
てしまって、「やっぱり、そう来たか ! 」と思うようになっています。
要するにこの、「千円から」っていうのは、何なんでしょうか。こうした対応語はふつう《
接客用語》と言いますが、私たちマーケティング指導業仲間では、何だかヘン、と思う販売
語を『売りヘン語』、と警戒的に呼ぶようになっています。とにかく最近、フシギな用語が
多くなったことを感じる方も少なくないでしょう。
「千円から」は《カラ入れ》語とも呼ばれますが、「お会計のほう、千円になります」の《ホ
ウ入れ》、「こちら、ケチャップになります」の《ナリ替え》、「休まさせて頂きます」の《サ
入れ》など、 ? ? な用例は現実、増加の状況にありますね。
コトバの構成を日々仕事としている私たちにとっては、一般の方々の何十倍も助詞や副詞、
用法に敏感でないと、読み手・聞き手の心に命中狙撃する短文を書くことは困難です。それ
でいつも、売場でも電車内でも、コトバ表現へのアンテナをピッピッと張っているのが体質
となっています。そこへもってきて「千円から」、と正面衝突してしまうんですね。
そんな背景で、この用語の発生原因をどうしても考えてしまうんです。もしかすると、米国
のもとの販売マニュアルに「from 10 dollars」みたいな原文があって、ウッカリ直訳しちま
ったんでは ? と疑いも出ます。それでワザワザ調べてみたのです。が、しかしケンタッキー
・フライドチキンも、デニーズや各種ファーストフード店販売マニュアルでも、「〇〇円お
預かりいたします、と応対すべき」、と正しく記述していて、企業側の用語加工ではありま
せんでした。百貨店の営業ガイドでも、「千円お預かりいたします、と話すように」、との
指導要領でまとまっていました。
実は私は百貨店やギフト店舗の売場を統括した経験があるんですが、店頭の現実をよ〜く考
えてみて、「ハハァ、もしかして、あれかも----」、と思い当たる所がありました。
売場の販売員は毎日の売上日割り予算に厳しく追われていて、杓子定規な販売ガイド完全遵
守ではフレッシュな売上開拓はできない、という実感を強く持って働いています。たしかに
マニュアルは最低限の管理を維持するボトムアップ目的で構成される機械的規則ですので、
何年も勤めている販売員には正直、苦痛でもあります。それで「お客に対して新しい話し方
を持ち込んで、何が悪いの ? 」という気風がどうしても体質になるし、洗練されない販売員
ほど奇妙キテレツな応対語を《 ワタシ的な新鮮コトバ 》として活用し、それはまた、あっと
いう間に流行の波に乗る、という時代でもあるわけです。
マニュアルの改修・変革は店舗の今後命題であることは間違いないんですが、店の模索では、
いらっしゃいませ、でなくて「こんにちわ ! 」と言わせたり、若者商品専門店でたまに有効
だったりするんですが、「こんなビミョーな組み合わせ、いいよね ? 」なんて、自称カリス
マ店員が長年の友のように馴れ馴れしく話しかけたり、の現象も街では横行しています。お
客としてはその逞しい営業姿勢にビックリ。逆にひいてしまう場面も少なくないです。
たしかに日本語は奥が深いしねえ。不特定の相手にはまず基本的に正確なコトバ・マナーの
中で、その上で気もちよく話して貰えないかなあ、と思うこのごろです。
( 日経BP社『 日経MASTERS 』誌'04/11コラム・編集前元原稿 )
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